日本財団 図書館


 

この病院へ行っても無理だろう。ろう学校に入れることを考え、近くの保育所に預かってもらいなさい」と言われました。地元の保育所に一年通い、高知ろう学校に入学できましたが、遠方のため寄宿舎生活が始まりました。昼間は仕事に追われまぎれていた寂しさも、夜になると子供を思い出し涙にくれる毎日でした。
土曜日に家に帰り月曜日の朝、祖父と寄宿舎に戻るとき、「バイ、バイしと言うと、ニコニコして、「バイバイ」と手を振りました。それが何よりの救いでした。最初の言葉はバナナを見て、「バナナ、バナナ」でした。それが嬉しくてみんながバナナを買ってきては、「バナナ、バナナ」と言わせました。
哲夫が小学五、六年生のころ、「どうして耳が聞こえなくなったのか」と問われ、私は病気のことを話し、ストマイのために聞こえなくなって尾木先生に助けてもらったことを話し、哲夫も納得したようでした。
祖父母や家族一同が哲夫を可愛がり、できることを精一杯してくれました。姉は手話の勉強をして手話で話しをし、兄も口話で通じ合い兄姉三人が神よかったので助かりました。
哲夫は、将来の仕事を理容と決め、国家試験に向け勉強を始めました。先生方のご指導のお陰で試験にも無事合格し、ろう学校を卒業できました。
健聴者の真弓さんと結婚して間もなく、安芸市の土居上中で理容店を開業しました。現在は二人の息子(小学二年、一年)にも恵まれて、もう十年過ぎ、ますます理容業に励んでいます。娘も理容師の資格を取り一緒に理容の仕事をし、手話で通訳もしています、

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION